存在の耐えられない軽さ

本読んで考えたり、考えてること、勉強してることに関する日記

ニワトリの初期発生のまとめ

発生の基礎知識

 いろいろな発生を見てきた。ウニやセンチュウ、はたまたカエル、今回は更に進化してニワトリだ。今までの生物はレジュメは図も多かったし、わかりにくい語も少なかったのでおちゃのこさいさい、テストに至っては過去問どおりでeasy peasy。とても簡単だっただろう。*1だけど、今回レジュメを見るとわかるように、なんか図は小さいし、テクニカルタームは英語ばっかだしで複雑だ。こういう応用的な事項を学ぶときこそベストな方法が基礎的な知識に還ることだ!ニワトリの発生を見るために、まず、発生とはなにか?から把握していこう

 

発生のポイント

 

1つの胚細胞分裂(=卵割)→多細胞になる(最初)

②やがて細胞集団の間で機能が分化!(primitive streak)

 

特に周りの話を聞いていると、1つの胚*2というところで躓いている人が多かった気がする(僕も最初はそうだった)ので、注意してくれ!

ニワトリの胚はどこだ?

卵がこんなに複雑だなんて知らなかった

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まず、発生の一番最初、すなわち卵割は1つの胚からできるんだった。それじゃ、ニワトリの卵を卵割するために、胚がどこにあるのかをまず把握していこう!

 

図の一番上にある卵を見てみよう。そこにblastoderm(embryo)と書かれている部分が見えるかな?このblastodermという部分が胚だ*4上の動画を見てもらったらわかるが、ニワトリの胚は卵黄に対してとても小さい。ニワトリの初期発生(ニワトリに限らず)では細胞分裂はこの胚の部分で起こる。そして、カエルやゼブラフィッシュと違って卵黄がとても硬く卵割されないため、卵黄は発生の際の栄養として使われていくだけだ。なので、初期発生を見るときは気にしなくて良い。

ニワトリ発生の実験の歴史

アリストテレス超人過ぎないか
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ニワトリの初期発生は他の生物に比べてとても観察しやすく、古来よりアリストテレス著「動物誌」の第6章でもアリストテレスが殻を破って中身を目視で観察する記述がある。ちなみにこの本の内容は玉石混交で、ニワトリの発生を始めとする550種ほどの動物に新しい知見を加える一方で、男と女の歯の本数は違うと書いていたりする*5アリストテレスよ、妻の口の中くらい確認しろ。それでも未だに影響力があるのは、この本に常人だったら一生知ることのない知識と彼の知識に対する執念が詰め込まれているからだろう。

 

現在はさらに技術が発達しているのでよりビジュアリスティックに理解することができる。ニワトリの初期発生に関しては↓の動画がゴジラ出てきそうなおどろおどろしい雰囲気でかっこいいのでおすすめだ。

 

 


「生命誕生」東京シネマ1963年製作

盤割→subgerminal spaceの形成

さぁ、胚がどこかを確認したところで卵割の話に移ろう。

 

卵割とは胚に特有の細胞分裂の仕方のことで、増殖速度が早いとかいろいろ特徴はあるけど、まぁ普通に細胞分裂と一緒と考えてもらって構わない。そして、曲者なのがニワトリはウニやカエルとは違って卵黄を巻き込んでぶった切るようなことをしない。ではどうするか?卵黄表面の胚だけをちょこちょこっと分裂、増殖させていくのだ。これを「盤割」という。

 

以下の図が「盤割」を描いた模様になる。ウニやカエルの卵割が進むと、胚の中心に胞胚腔だとか卵割腔だとか、何やら穴ができてきたのを覚えているかな?

ニワトリでも一緒で、下の図2,3,4枚目にsubgerminal spaceという穴ができる。

 

←上から見た図   横から見た図→
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この穴が重要で、この中に原腸が貫入していき胚葉が分化していくのがウニやカエルの発生の流れだ。

ニワトリは更に一ステップ加わって、primitive streakというものをまず形成する。

つまりニワトリは

 

盤割→subgerminal spaceの形成→primiritive streakの形成→中内胚葉の貫入→分化

 

という流れになっていることを把握してほしい。

そして、次にprimitive streakの形成の話になるが、これが課題になっているのと、レジュメを見ればわかるのでそちらを是非参考してほしい。(一応下に僕の回答例も載せておく)そして最後におまけとして小ネタだ。いろいろ英語が出てきて鬱陶しいので、その解説をしていくぞ(これがやりたかった)

 

専門用語の語源

ここが一番ややこしい
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subgerminal space ができる頃になり、胚を上から見ると上図のようになる。

area pellucida領域は細胞が1層のシートとして並んでいるだけなのでは明るく見え、area opacaは細胞がたくさんの層になっているので暗く見える。areaが場所を意味するのは自明だが、pellucidaやopacaがいまいちわからんね。ラテン語なので当然なのだが、少しばかりラテン語を知っておくのも悪くないと思う。

Area pellucida

pellucidaは分解すると

▲per-(through)

▲lucidius-(ラテン語;lucid)から来ていることがわかる。

lucidは明るい、明確な、とかclearと同じ意味を持つが、知らない人のために補足説明をすると

▲lux(light)

から来ており、シャンプーのlux super rich

ハリー・ポッタールーモス!「光よ!」なども同語源である。

through(通り抜けるイメージ)+lucid(明るい)なので、光が細胞を通り抜けて明るく見えるイメージが思い浮かぶだろう。


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よってarea pellucidaは明るい場所、すなわち細胞の層が一層だけからなる部分をさす。

Area opaca

それでは、area opacaはなんだろうか。

opacaラテン語)は

▲παχυξ(ギリシャ語;発音pakhus、意味thick)

から来ている。細胞の層が「厚い」ので「見通せない」つまり「不透明な、暗い」といった意味になる。

opacaという綴りを見れば、英語のopaqueを思い出す人もいるだろう。よく、不透明な政治opaque politicsの形でTIME誌で使われるのを見たことがある人も多いだろう。


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Koller's sickle

koller's sickleのsickleは「鎌」だ。ライフサイエンスで半月状のものを命名するときに使うオシャレワードでよく見かける。鎌状赤血球貧血症でも同じ単語が使われている。確かに鎌っぽい形をしてなくもない。(posterior merginal zoneもそうじゃんとか言わない)


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Hypoblast,Epiblast,Blastoderm

blasto-が共通しているのでこいつを見ていこう。

blasto

  ▲βλαστός (ギリシャ語発;音blastósgerm, sprout)

germは胚、sproutは芽とか、成長していくとかいうイメージだ。

これはどんどん細胞増殖を続けるblastoderm、primitive streak形成の際に増殖して前進や後退をするhypoblastやepiblastにピッタリのイメージだと思う。

 

次にepi-とかhypo-はなんなんだよって思うと思うので調べてみると

epi-ギリシャ語由来で

▲ ἐπί (ギリシャepíon top of)

epiは「上」と覚えておくと良い

関連としてはepicenter(震央;震源の真にある地上)がわかりやすい。

 

次にhypo-ギリシャ語由来で

 ▲ ὑπο- (hupo-,under)

hypoは「下」と覚えておくとよいだろう。

ライフサイエンス系でよく使う言葉hypothesis(仮説)は、科学者が行う実験の土台、縁のの理論という意味である。

 

Primitive streakの形成

さてさて、ようやくprimitive streakの話だ。

primitive streakの働きは簡単に言うと体の前後軸を形成することだ。*6

作り方の概略を説明すると

 

epiblastがprimitive streakになりたがってる

primary hypoblastが下からcerberusで阻害している

secondary hypoblastがprimary hypoblastを押しやる

epiblastがフリーになってprimitive streakになる!

 

という感じ。後は、primitive streak能を持った細胞間でCadherin junctionやらが削れて動ける。subgerminal spaceを裏打ちする基底膜がなくなったり、極性がなくなったりして流動化するので、subgerminal spaceに中内胚葉として落ち込めるというわけだ。

 

まとめ

盤割

subgerminal spaceの形成

primitive streakの形成

中内胚葉の陥入

分化

 

これで以上!

おまけ(ラテン語の初歩)

ラテン語の名詞は、数(numerus)と格(casus)によって語の形を変える。あと、名詞によって性別があっていちいち覚えないといけない。

●数には、単数(singularis)と複数(pluralis)がある。古典ギリシア語のような双数はない。
格には、
主格(nominativus):~は、~が
呼格(vocativus)
属格(genitivus):~の
与格(dativus):~へ
対格(accusativus):~を
奪格(ablativus):~から、~で
地格(locativus)
の7つがあるが、呼格≒主格と同形であり、更に医学単語は主格と呼格だけ覚えておけばok!

●名刺の格変化は5つあるが、まずは最初の2つだけ覚えていればなんとかなる(形容詞の格変化と一緒だから)

1) 第一変化名詞:女性
第一変化名詞をする特徴的な語尾形
主・単 -a
属・単 -ae
主・複 -ae
属・複 -arum

例) vena, venae f. 静脈 
主単 vena: 静脈は(が)
属単 venae: 静脈の
主複 venae: 静脈等は(が)
属複 venarum: 静脈等の

 

)-a) 第二変化男性名詞
第二変化男性名詞をする特徴的な語尾形
主・単 -us
属・単 -i
主・複 -i
属・複 -orum

例) nervus, -i, m. 神経 
主単 nervus: 神経は(が)
属単 nervi: 神経の
主複 nervi: 神経等は(が)
属複 nervorum: 神経等の
語基はnerv-, 
合成語はnervo-sus 神経の

*1:大嘘ですめっちゃ難しかったです

*2:https://www.youtube.com/watch?v=CG7U7lDKzZM

*3:http://www.mun.ca/biology/desmid/brian/BIOL3530/DEVO_03/ch03f14.jpg

*4:blasto-はsprout、これから成長していくものの暗示-dermはbodyのこと。さらに言えば、厳密にはblastodermは胞胚期の細胞層である胚盤(germinal disk)のことを指すのだが、胚を指すものと考えてもらって構わない。

*5:http://skinerrian.hatenablog.com/entry/2016/05/01/161907

*6:https://www.ucl.ac.uk/biosciences/departments/cdb/people/claudio-stern/stern_lab/tutorial