存在の耐えられない軽さ

本読んで考えたり、考えてること、勉強してることに関する日記

カフカの「変身/掟の前で」光文社古典新訳文庫

 

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)

 

 

 

カフカの印象と東京喰種

カフカのことを初めて知ったのは「東京喰種」という漫画を読んだ時だ。作中の主人公金木研は人の見た目をしながらも人を喰らう「喰種」に突如として襲われながらも運良く(ここは解釈が別れる)一命をとりとめ、襲ってきた喰種の臓器を移植することで半人間半喰種として再び生を受ける。「変身」のグレーゴルが毒虫になり腐ったチーズを好むように食性が変化したのと同様に「東京喰種」の金木研も人間が口にするものに嫌悪感を覚え、人肉やコーヒーしか口に出来ない体になる。
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漫画のオマージュにもなるほどの有名な作品だが、カフカの予備知識としては「どうやら突然毒虫になり腐ったチーズを食べるようになる男の話を書いた奴」程度のものしかなかった。

 

判決

あらすじ

主人公ゲオルク・ベンデマンは、父親の店で働く若い商人である。彼は2年前に母を亡くして以来、父親と2人で生活しており、現在はもっぱら彼が中心となって店を切り盛りしている。作品の冒頭では、彼は異国で生活する友人への手紙を書き上げたところである。友人は成功を求めてロシアのペテルブルクに移住したものの商売がうまく行っておらず、家業が成功しているゲオルクは彼との手紙のやり取りに迷うところがあった。一月前に恋人と婚約したことも手紙に書きそびれていたが、しかし今回はようやく決心し、長い手紙の最後に自分の婚約について記していた。

ゲオルクは手紙をポケットに入れると、父の部屋へ行き、婚約の知らせを手紙に書いたことを父に知らせる。しかし事情を聞いた父は、お前にはペテルブルクに友人などいないと言い張る。ゲオルクは父に友人のことを言い聞かせ、父の健康を気遣い自分の部屋のベッドへ運んでいく。しかしベッドに寝かされた父は突然憤激し、ゲオルクが女の色香に迷い、自分や友人をほったらかしにしていたことをなじる。そして自分はペテルブルクにいるゲオルクの友人をよく知っており、それどころか彼の代理人としてすべての事情を手紙で書き送っていたと言う。そして言い争いの末、父親がゲオルクに溺死を命じると、ゲオルクは家を飛び出し、父母を愛していたことを小声でつぶやきながら、橋の上から身を投げる。

感想

はっきり言おう。最初読んだ時何言ってるか全然わからなかった

ロシアに去ってしまった友人にためらいながらも手紙で結婚したことを告げようと決心したら父親に死ねと言われて死んでしまう男の話だ。

 

これがカフカなのか?不条理不条理といわれる理由がわかった。というのも、前半の男は、父親が病に倒れても健気に頑張って店を支え、ロシアの友人に嫉妬心を起こさせたくないと配慮しつつも正直な話を伝えられない事に葛藤しながら遂に!結婚したことを伝える事に決める、要は人生イケてるし他人にも気を遣えるメチャクチャ良い奴なのである。だのに後半になると、精神病の父親お前は友人などいないとか、私が友人とやり取りしてすべての事情を(恐らく結婚のことを示唆してる)説明してる等と支離滅裂なことを言われるのだ。普通の精神ならば、相変わらず親父は大変だな、で済ませるのが道理だろう?それなのに息子は自殺するのだ。全く、前半と後半の齟齬が甚だしい。自然科学を専攻し、論理を愛する僕にとっては新鮮な気持ちを引き起こさせる作品だ。

 

解釈

内容を論理に沿ってまとめるだけで良い作品ならこれほど楽なことはないだろう。しかしカフカは違うのだ。あらかじめ設定しておいた人物の印象をがらりと変える結末を用意し、読者の心を揺さぶる。果たしてこれはどういう意味なのか?

 

  1. 精神病なのは息子の方だった
  2. 解釈など意味がない

 

1.精神病なのは息子の方だった

これ程までに疑問符が残る文章だと、物語の記述を全て信用してはいけない。

 

「ーしかし この問題に関してはお願いだ、ゲオルク、嘘をつくな。その手紙のことだ。つまらん。話す価値もない。だから嘘をつかないでほしい。本当にペテルブルクにそんな友達がいるのか」

 

これを聞いたゲオルクは狼狽えるのだが、ゲオルクがまともならばそうする必要はあるだろうか?私にはゲオルクが精神錯乱しているようにしか見えない。自らの心のなかで存在する友達の存在に疑問符を投げ掛けられて困るのは、それが自分にとっての拠り所となっているからだ。ゲオルクは順調な暮らし、婚約者もおり、苦労してる友人もいるのだ。

お前の友達なら、私は良く知っている。 心にかなった息子のようなものだ。だからお前はあれを何年もずっと騙してきたんだ。違うか。あれのために私が泣かなかったとでも思うのか。だからな、お前は事務室に閉じこもって、誰も入れない。ボスは多忙だからなーもっともそうすればロシアに偽の手紙も書けるわけだ。だがな、嬉しいことに父親というものは教えてもらわなくたって息子の心が読めるものだ。親父のことをやっつけたと思ってただろう。尻にしいてやったから、親父のやつ、動きできないだろう、とな。そこで息子さんとしては結婚しようと決心したわけだ。

 

当にここは父親の今までの苦労が感情と共に吐露されている場面ではないだろうか?

 

だがな、お前の友達は騙された訳じゃない。私がこの街であれの代理人だった。

 

つまり、手紙を受け取っていて、友人の振りをしていたのは父親だったのだ。

 

まとめ

初めは何を書いてるかわからなかったが、息子が精神錯乱だという前提に立つと一気に空模様が明るくなった。他にも学者等が解釈を書いているのがあるので、是非参考にしてまた新たな記事を書きたい。次は変身について書こうと思っている。